コラム

2017.02.12

匂いのメカニズム

「クサイ」と感じた臭いが、しばらくすると気にならなくなるのはなぜだろう?  

匂いとは、それを生み出す物質の分子が空気中を漂って鼻に入り、鼻腔の上部の嗅粘膜中にある、嗅細胞の嗅覚受容器(生体の持つ一種のセンサー)を刺激することによって生まれる感覚のことだ。つまり匂いのもとは物質なのだ。この物質とは普通 の場合、いわゆるベンゼンの亀の子(炭素の六角形)構造を持った化学物質。炭水化物と呼ばれる類の有機化合物だ。その種類は無限ともいわれるほどあるが、人間が感じとることができるのは、およそ四万種類だといわれる。もっとも、似たような匂いはたくさんあるので、嗅ぎ分けられるのはこのうちのおよそ五千種類。それも訓練を積んだ人でないと難しいという。


匂いのメカニズムは人間の感覚のなかでもきわめて謎が多く、いまだにその本質部分は明らかになっていない。
匂いの分類で有名なものはハンス・ヘニングという研究者によるものだ。1薬味性、2花香性、3果 実性、4樹脂性、5腐敗性、6焦臭性の六種を基本臭とし、経験されるすべての臭いはこの六種の基本臭を頂点とするプリズムの表面 上に位置づけられるとして、三角柱状の匂いのプリズムを作成した。しかし、この分類ではすべての匂いを表すことができなかったことと、基本臭なるものが本当に存在するのかが問題となり、結局、その分類法は現在でも確としたものがない。いまのところ、同じような匂いにはその匂い物質の構造に似たパターンがあることや、匂いごとに刺激する嗅覚の受容器のセンサーが違うことなどが明らかになっている。

もっとも、匂いにかぎらず、味覚や痛覚などの感覚は、最初はビシッと感じても、時間がたつとそうでもなくなってくる。だんだん気にならなくなる・・・・というやつだ。これには物理的な理由と生理的な理由がある。
まず物理的な理由だが、匂いのもとは物質の分子なので、その量が減れば匂いは弱くなる。そして「クサイ」と感じたとき、だいたいは臭いの物質がかなり濃く混じった状態の空気を吸っている。この濃い臭い物質はしだいに空気中に拡散していくので、鼻の嗅覚受容器にぶつかる頻度は時間とともに低くなるわけだ。たとえばオナラの臭いが感じられるのは、たいていがまだ放たれたばかりの濃いガスを吸ったためだ。だから周囲の空気をよくかき混ぜれば、それだけ早く気にならなくなる。

一方、生理的なメカニズムとはいわゆる慣れの問題だ。なんらかの刺激があったとき、人間の感覚システムは最初の刺激には鋭敏に反応する。だが、その刺激が繰り返されると、感覚器官から脳へのインパルスが減少してしまう。これは感覚器官が刺激を受け続けると徐々に反応しなくなり、しまいにはごく単純な情報は別 にして、ほとんど感じなくなってしまうからだ。感覚器官は、新しい刺激がきたときには顕著に反応するが、同じ刺激を続けて受けるにしたがって発するインパルスの数を減少させる。

一方、脳の方でも、同じ刺激がきたということを受けとめ続けると、感覚として認知する刺激のレベルはそれほど大きくなくなっていく。このような作用は、いわば脳や感覚器官の安全装置だ。同じ情報をたくさん重ねることで、それぞれの機能がパンクしてしまうのを防いでいるわけだ。

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